キューバの首都ハバナ。その心臓部である「ハバナ旧市街(Habana Vieja)とその要塞群(Fortificaciones)」は、1982年にユネスコの世界遺産に登録されました。この地域は、単なる美しい街並み以上の、生きた歴史博物館です。30代の知的好奇心旺盛なあなたのために、ハバナ旧市街の魅力を深掘りしていきましょう。
1. 世界遺産としてのハバナ旧市街:なぜ特別なのか?
ハバナは、16世紀にスペインによって建設され、新大陸と旧大陸を結ぶ貿易航路の重要な中継地点として発展しました。そのため、海賊からの攻撃を防ぐために強固な要塞が築かれ、その中に街が形成されていきました。ハバナ旧市街が世界遺産として評価されている主な理由は以下の点にあります。
- カリブ海で最も優れたコロニアル都市の例: 16世紀から19世紀にかけてのスペイン植民地時代の都市計画と建築様式が、驚くほど良好な状態で保存されています。バロック様式からネオクラシック様式まで、多様な建築様式が混在し、その変遷を辿ることができます。
- 戦略的要衝としての要塞群: 湾の入り口や市街地を守るために築かれた大規模で複雑な要塞システムは、植民地時代の軍事建築技術の傑作とされています。これらの要塞は、カリブ海の貿易路を守る上で極めて重要な役割を果たしました。
- 生きた歴史: 多くの世界遺産が博物館化していく中で、ハバナ旧市街は今も住民が暮らし、商店が並び、音楽が響く「生きた」街です。歴史的な建造物の中に、キューバの人々の日常が息づいている点が、その大きな魅力です。
2. ハバナ旧市街の「広場」を巡る:街の心臓部
ハバナ旧市街には、それぞれ異なる歴史と雰囲気を持つ特徴的な4つの広場があります。これらの広場を中心に街を巡るのが、効率的で理解を深めるための鍵となります。

- カテドラル広場(Plaza de la Catedral)
- 特徴: ハバナ旧市街で最も格式高い広場の一つで、バロック様式の傑作「サン・クリストバル・デ・ラ・ハバナ大聖堂」がそびえ立ちます。周囲には、植民地時代の貴族の邸宅が並び、現在は美術館やレストランとして利用されています。
- 見どころ: 大聖堂の美しいファサード、邸宅の鉄格子やバルコニーの装飾。広場では、民族衣装を着た女性やシガーを吸う男性が写真のモデルとして立っていることもあります(有料の場合が多い)。
- 歴史的背景: かつては沼地でしたが、18世紀に大聖堂が建設されてから街の中心的な広場として発展しました。
- アルマス広場(Plaza de Armas)
- 特徴: 旧市街で最も古く、かつて軍事演習場として使われていた広場。現在は古本市が開催され、地元の人々や観光客で賑わいます。
- 見どころ: 広場の中央にはキューバ独立の英雄セスペデスの像が立ち、周囲には「総督宮殿(Palacio de los Capitanes Generales、現在は市立博物館)」、「エル・テンプレテ(El Templete、ハバナ市創建の地を示す記念碑)」など、歴史的建造物が並びます。
- 歴史的背景: ハバナ市が創建された場所の一つとされており、スペイン植民地時代の行政の中心地でした。
- サン・フランシスコ広場(Plaza de San Francisco de Asís)
- 特徴: 港に面した広場で、かつては貿易船の到着を待つ商人たちで賑わいました。
- 見どころ: 高くそびえる「サン・フランシスコ・デ・アシス修道院教会」の鐘楼(有料で登ることができ、旧市街やハバナ湾の美しい眺望が楽しめます)、隣接する「メルカデレス通り」の美しい建築物。
- 歴史的背景: ハバナが港町として発展していく中で、交易の拠点として重要な役割を担いました。
- 旧市街広場(Plaza Vieja)
- 特徴: かつて市場や闘牛場として使われた広場で、最も日常的な雰囲気が残っています。現在は洗練されたカフェやレストラン、醸造所などが並び、リノベーションされた美しい建物が多く見られます。
- 見どころ: 広場を囲む様々な建築様式(バロック、アールヌーボーなど)の建物、特徴的なステンドグラスの窓、広場中央の噴水。夜はライトアップされ、昼間とは異なる魅力があります。
- 歴史的背景: 住民の生活の中心地として機能し、多様な文化が交錯する場所でした。
3. 街を守った「要塞群」:軍事建築の傑作
ハバナの要塞群は、スペイン植民地時代の軍事防衛システムがいかに堅固であったかを物語っています。これらは単なる防衛施設ではなく、当時の技術と戦略思想を示す重要な遺産です。

- フエルサ要塞(Castillo de la Real Fuerza)
- 特徴: アルマス広場のすぐ隣にある、アメリカ大陸最古の石造り要塞。四角い形が特徴で、屋上にはハバナのシンボルである女性の風見鶏「ラ・ヒラルディージャ」のレプリカがあります。
- 見どころ: 城壁内は博物館となっており、ハバナの歴史に関する展示があります。特に屋上からは、ハバナ湾と旧市街の美しいパノラマを眺めることができます。
- 歴史的背景: 16世紀半ばに海賊の襲撃から街と財宝を守るために建設されました。
- モロ要塞(Castillo de los Tres Reyes del Morro)
- 特徴: ハバナ湾の入り口、旧市街の対岸にそびえ立つ、ハバナのランドマーク的存在。灯台がシンボルです。
- 見どころ: 要塞からの眺望は素晴らしく、特に夕暮れ時、対岸のハバナ旧市街やエル・マレコンがオレンジ色に染まる景色は圧巻です。毎晩21時には「カニョナッソ(大砲の発射セレモニー)」が行われ、多くの観光客が集まります。
- 歴史的背景: 16世紀末から17世紀初頭にかけて建設され、湾の入り口を厳重に監視していました。
- ラ・カバーニャ要塞(Fortaleza de San Carlos de la Cabaña)
- 特徴: モロ要塞のさらに奥、広大な敷地を持つ要塞。かつて南米最大の要塞と言われました。キューバ革命期には、チェ・ゲバラがこの要塞を拠点としました。
- 見どころ: 敷地内には革命博物館の一部や、チェ・ゲバラが執務した部屋などが保存されています。モロ要塞と同じく、カニョナッソのセレモニーが行われる場所でもあります。
- 歴史的背景: イギリス軍によるハバナ占領後、スペインが再建し、より大規模な防衛施設として機能しました。
4. ハバナ旧市街の通りと路地裏:日常の風景
広場や要塞だけでなく、旧市街の細い通りや路地裏にも、ハバナの魅力が詰まっています。
- メルカデレス通り(Calle Mercaderes): 「商人通り」という意味を持つこの通りは、かつて商店がひしめき合っていました。現在は、歴史的な建築物を修復し、博物館、ギャラリー、土産物店、カフェなどが並びます。歩行者天国なので、安心して散策を楽しめます。
- オビスポ通り(Calle Obispo): 旧市街で最も賑やかな通りの一つ。ショップ、レストラン、バーが軒を連ね、常に活気があります。ヘミングウェイが通ったバー「フロリディータ」もこの通りにあります。
- 人々の暮らし: 狭い路地裏に入ると、洗濯物がはためくベランダ、路上でチェスをするおじいさん、サッカーボールを追いかける子供たちなど、地元の人々の日常の風景に出会えます。観光客向けに整備されたエリアから一歩入ることで、よりリアルなキューバを感じることができるでしょう。
5. ハバナ旧市街を彩る文化:音楽、クラシックカー、そして文学
ハバナ旧市街は、単なる建造物の集まりではなく、生き生きとした文化が息づく場所です。

- 音楽とダンス: 街の至る所から、サルサ、ソン、ルンバといった陽気なキューバ音楽が聞こえてきます。路上での生演奏や、カフェやバーでのライブは日常の風景。思わず体が動き出してしまうようなリズムは、旅の気分を最高に盛り上げてくれます。
- クラシックカー: アメリカとの国交断絶以来、新たな車の輸入が途絶えたことで、1950年代以前のアメリカ製クラシックカーが今も現役で走っています。タクシーとして利用できるものも多く、そのカラフルな姿はハバナ旧市街の象徴的な風景であり、最高の写真スポットでもあります。
- ヘミングウェイの足跡: 文豪アーネスト・ヘミングウェイはハバナを愛し、その作品にも多大な影響を与えました。旧市街には、彼が通ったバー「フロリディータ(El Floridita)」や「ラ・ボデギータ・デル・メディオ(La Bodeguita del Medio)」があり、彼の愛したカクテル(ダイキリ、モヒート)を味わいながら、当時の雰囲気に浸ることができます。
6. ハバナ旧市街を深く楽しむための事前学習ポイント
ハバナ旧市街を訪れる前に、以下の点を頭に入れておくと、より安全に、そして充実した旅を楽しめるでしょう。
- 歩きやすい靴の準備: 石畳の道が多いため、スニーカーなど歩きやすい靴は必須です。ヒールのある靴はおすすめしません。
- 現金の準備と管理: クレジットカードが使える場所は限られています。多めの現金(USドル、ユーロ、または現地通貨CUP)を持参し、分散して持ち歩くようにしましょう。小額紙幣はチップやちょっとした買い物に便利です。
- 治安と客引きへの対応: 旧市街は観光客が多く、比較的安全ですが、スリや置き引きなどの軽犯罪には注意が必要です。貴重品は体の前で管理し、バッグの口はしっかり閉めましょう。しつこい客引きには、笑顔で「No, gracias(いいえ、結構です)」と伝えれば大丈夫です。
- 水分の補給: 日差しが強く、汗をかきやすいので、常にミネラルウォーターを持ち歩き、こまめな水分補給を心がけましょう。
- スペイン語の挨拶: 「Hola(こんにちは)」「Gracias(ありがとう)」「Por favor(お願いします)」といった簡単なスペイン語の挨拶を覚えておくと、地元の人々との交流がスムーズになります。キューバの人々はフレンドリーなので、片言でも話しかけてみましょう。
- インターネット環境の理解: 日本のようにどこでもWi-Fiが使える環境ではありません。ホテルや特定の公園で購入できるプリペイドカード「ETECSA」を利用してWi-Fiに接続するのが一般的です。デジタルデトックス期間と割り切って、キューバの空気を肌で感じてみましょう。
- 時間感覚への適応: キューバでは物事がゆっくり進む傾向があります。「Mañana(明日)」という言葉が示すように、焦らずゆったりとした気持ちで旅を楽しむことが、キューバ流です。
ハバナ旧市街は、ただの観光地ではありません。五感を使い、その歴史、文化、そして人々の温かさに触れることで、あなたはきっと、この街が持つ特別な魔法を感じ、心に深く刻まれる特別な体験を得られるでしょう。
この事前学習ガイドが、あなたのハバナ旧市街探訪をより豊かなものにするための一助となれば幸いです。
コメント