ハバナの夜は、観光客で賑わう「フロリディータ」や「ボデギータ」だけではありません。本当の音楽の魔法は、一本裏通りの、窓から漏れる音だけが頼りのような「名もなき名店」に潜んでいます。
妻の友人のくれた最新の現地情報を照らし合わせ、あなたが訪れたらいいなと思える「ハバナの魂が宿る穴場スポット」を5つ厳選しました。ここに行けば、あなたは「観光客」ではなく、一人の「アミーゴ(友人)」として迎え入れられるはずです。
1. メソン・デ・ラ・チョレラ(Mesón de la Chorrera)
【エリア:ベダード地区・マレコン通りの西端】
マレコン通りを西へ、アルミンダレス川に突き当たる手前に建つ17世紀の要塞「トレオン・デ・ラ・チョレラ」。ここは昼間は歴史スポットですが、夜は地元ベダード住人のための社交場へと姿を変えます。
- おすすめの理由: 旧市街の喧騒から離れているため、ここに来るのは近隣の音楽好きや、落ち着いて酒を楽しみたいハバナの大人たちです。石壁に囲まれた空間は反響が素晴らしく、マイクを通さないアコースティックな「ソン」の響きが、直接心臓を叩くような感覚を味わえます。
- 現地で起きること: 夜10時を過ぎ、海風が心地よくなる頃、地元のベテランミュージシャンがふらりと現れます。派手なライトアップもありません。ただ、石壁の向こうに広がるカリブ海の波音と、トレスの弦の音が混ざり合う。そんな「静かなる情熱」がここにあります。
2.カフェ・テアトロ・ベルトルト・ブレヒト
【エリア:ベダード地区・13番通り】
地図上では単なる「劇場」として表示されます。しかし、夜の11時を過ぎる頃、劇場の横にある小さな地下への階段が「今のハバナ」への入り口になります。
- おすすめの理由: ここはハバナの若き才能、特に超絶技巧を持つジャズマンやファンク・ミュージシャンたちの実験場です。観光客が好むステレオタイプな「キューバ音楽」ではなく、ジャズやヒップホップを飲み込んだ最新のキューバン・サウンドが鳴り響いています。
- 現地で起きること: 狭い地下室は熱気で溢れ、汗だくになりながら踊る若者たちのエネルギーに圧倒されるでしょう。ここでは、即興のセッションが何時間も続きます。ここでは「今のキューバ」を全身で浴びることができる場所です。
3.ラ・ゾーラ・イ・エル・クエルボ(La Zorra y el Cuervo)
【エリア:ベダード地区・23番通り】
入り口が赤い公衆電話ボックスになっている、少しトリッキーなジャズ・クラブです。有名店ではありますが、カサ・デ・ラ・ムシカとは客層も質も全く異なります。
- おすすめの理由: ここは「踊る」場所ではなく「聴く」場所です。出演するのはキューバ国内でもトップクラスのテクニックを持つミュージシャンばかり。耳の肥えた地元民が、一音一音に集中して耳を傾けています。
- 現地で起きること: 密閉された地下空間で、トランペットやピアノの音が壁に跳ね返り、直接脳を揺さぶるような感覚。ここでは、音楽がエンターテインメントではなく「芸術」として扱われています。静かな興奮の中で、最高の一杯を味わいたい夜には最適な場所です。
4. アソシアシオン・カナリア(Asociación Canaria de Cuba)
【エリア:ハバナ旧市街・カピトリオ近く】
カピトリオ(旧国会議事堂)の目鼻の先、モンセラテ通りにあるこの場所は、1階の入り口がただの古い石造りの扉なので、観光客は100%素通りします。ここは「カナリア諸島出身者の親睦会」という名目ですが、実態は地元民のダンスホールです。
- おすすめの理由: ここは「見せるためのダンス」ではなく、「自分たちが楽しむためのダンス」の聖域です。2階に上がると広がる高い天井のホールでは、生バンドに合わせて地元のおじいちゃんやおばあちゃんが、驚くほど軽やかなステップで「カジノ(円形サルサ)」を踊っています。
- 現地で起きること: 観光客用の店のような「お決まりの曲」は流れません。バンドと客が一体となって、その場の空気を盛り上げていく。もしあなたが隅でリズムを取っていれば、笑顔の老婆に手を取られ、本場のカジノの輪に引き入れられるかもしれません。それこそが、2026年の旅であなたが求めている「繋がり」です。
5.エル・デル・フレンテ(El del Frente)の「裏の階段」
【エリア:ハバナ旧市街・オレイリー通り周辺】
旧市街のメイン通りであるオレイリー通り。おしゃれなカフェが並ぶエリアですが、ここで紹介したいのは、建物の奥にある「地元ミュージシャンの溜まり場」としての顔です。
- おすすめの理由: ここは、公式なライブスケジュールが発表されることは稀ですが、夜22時を過ぎた頃、ハバナ中のトッププレイヤーたちが「仕事終わり」に集まってくる場所として知られています。彼らはプロとして大きなステージで演奏した後、ここで自分たちが本当に演奏したいソンやジャズを、ラムを片手に即興で奏でます。
- 現地で起きること: ここでは「ステージ」と「客席」の境界線がありません。隣に座っていた男性が、おもむろに持参したトランペットを吹き始め、カウンターの女性がそれに合わせてコーラスを入れる。そんな「日常と音楽が地続きの瞬間」が目の前で展開されます。観光客用の「ショー」ではないため、演奏は荒々しくも情熱的。プラスチックコップに注がれた強いラムを飲みながら、彼らの会話のような演奏に耳を傾ける時間は、ハバナの夜の深さを教えてくれます。
6.穴場を訪ねる夜、誰もが抱く「3つの不安」と解決策
地元民しか知らないような路地裏や、入り口の分かりにくい社交クラブ。そこへ足を踏み入れるとき、誰の頭にもよぎるのは「本当に安全なのか?」という不安です。再訪を夢見るべんすけさんが家族を連れて行くとなれば、その責任感はより強くなりますよね。 ここでは、夜の穴場巡りで直面するリアルな不安と、それを安心に変えるための具体的な立ち振る舞いをまとめます。
6-1. 「暗い路地」と「人通り」への不安
ハバナの旧市街やベダード地区は、日本と比べて街灯が極端に少なく、夜になると「真っ暗な路地」が至る所に出現します。ここを歩くのは、確かに勇気がいります。
- 不安を解消するために: 実はハバナの夜が暗いのは「停電」や「節電」の影響が大きく、治安が悪いためではありません。彼らは夜、暗闇の中で近所の人と座ってお喋りをするのが日常です。対策: 不安な場合は、必ず「マレコン通り」や「オビスポ通り」などの人通りの絶えない大きな通りから、目的地まで「最短距離」で移動するようにしましょう。また、宿(カサ)を出る前にオーナーに「この場所まで今から歩いて行けるか?」と一言確認するだけで、「今はあそこの道が工事中で暗いから、こっちを通れ」といった最新の近所事情を教えてもらえます。
6-2. 「地元民ばかりの空間」への疎外感とトラブル
観光客が一人もいない、スペイン語しか聞こえない空間。そこで「ボッタクられるのではないか」「場違いだと思われないか」という不安も当然あります。
- 不安を解消するために: キューバの人々は、音楽を楽しむ場において、部外者に対して非常に寛容です。対策: トラブルを避ける最大のコツは、「自分もその場所の一部になること」です。まずはカウンターでビールを一本頼み、ミュージシャンに敬意を払って演奏を聴く。笑顔で小さくリズムを取っていれば、彼らはあなたを「音楽を愛するアミーゴ(友人)」として認識してくれます。料金が不安なら、注文前に「¿Cuánto cuesta?(クアント・クエスタ?/いくらですか?)」と聞けば、観光客価格ではない地元の適正価格で楽しめます。
6-3. 帰り道の足の確保
一番の不安は「どうやって帰るか」です。穴場であればあるほど、店の前にタクシーが待機していることはありませんし、流しのタクシーも捕まりにくいものです。
- 不安を解消するために:対策: 行きに利用したタクシーの運転手に、帰りも迎えに来てもらうよう交渉しておくのがベストです。「1時間半後にここへ戻ってきて」と言って少し多めのチップを約束するか、電話番号を交換しておきましょう。あるいは、お店のスタッフに「帰りのタクシーを呼んでほしい」と頼むのも非常に有効です。彼らは顔見知りの、身元がはっきりしたドライバーを呼んでくれます。家族4人での移動なら、これが最も安全で確実な方法です。
さいごに:不安の先にある「本当のハバナ」を信じて
夜のハバナの穴場を訪ねるには、少しの準備と、暗闇を抜ける勇気が必要です。しかし、その不安な路地を抜け、重い扉を開けた瞬間に飛び込んでくる熱気、トレスの弦が弾ける音、そして地元の人々の弾けるような笑顔。それらを目にしたとき、あなたの不安は一瞬で「この場所に来てよかった」という感動へと書き換えられます。
キューバの人々は、物質的に豊かなわけではありませんが、音楽と友情に関しては世界で最も豊かな人々です。あなたが誠実に接すれば、彼らはそれ以上の温かさで返してくれます。夜、最後の一杯を飲み干してバーを出るとき、あなたの心には、ガイドブックの100ページを費やしても語り尽くせない、本物のキューバの記憶が刻まれているはずです。
準備を整え、現地の人の知恵を借り、あとは自分の直感を信じること。さあ、安心してその一歩を踏み出してください。


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